二十九、三十
はじめまして。
ライフスタイルギャラリーの本社で働いている人間(29)です。
僕が中学生か高校生の時、卒業生の作家の方に学校の周年記念で有難いお話を聞くという機会があった。
原田宗徳さん、ご存じの方いらっしゃいますでしょうか?
その有難いお話の中で今でも刺さっている言葉がある。
「まずは書いてみるんだ。何でも良い。とりあえず書いてみるんだ。」
一言一句正しいかは覚えていないが、真っ白い何も書かれていないハードカバーのノートを周年記念に渡された。
そのノートは知らぬ間に母親の手によって処分されてしまったのを、僕はいまだ根に持っている。
僕がライフスタイルギャラリーに入社して2年も経っていない。
僕はうちで販売している商品を買ってください、不要なものがあれば買取させてください、なんてことをこのコラムで書こうとは思わない。
お店のスタッフブログでもなければ、活動報告でもない。
ライフスタイルギャラリーの本社で働く人間(29)として仕事から、生活から、通勤路や季節の匂いから感じる様々なことを文章に起こして発信しようと、モニターの向こう側のあなたに向けてキーボードを叩いている。
僕の文章や日々の生活があなたの命の回転の一部になればと思っている。
あと一年もしないうちに三十路を迎える。
年齢を重ねることに対して僕は楽しみを感じている方だと思っている。
買取した厨房機器を運ぶときに切ってしまった手の傷の治りが遅くなっていることも、不特定多数の異性に向けてではなく自分の為に始めるようになったスキンケアも、ノッキオンヘブンズドアを観て当時ざわついた心からざわつきが消えて、代わりに「穏やか」が横たわるようになったことも、迎合ではなく楽しいと感じられている。
人生の経験で「初めて」も少なくなってきているが、大人になってからの「初めて」ほど面白いものはない。
子どものときにはない、お金にモノ言わせることだってできるし、不便を楽しむことだって覚えたのだから。
水没して行き場を失ったチーク材の家具を、仲の良い職人にリペアをして新しい命を吹き込んでもらった。
僕は美術の成績が5点満点中、2点を越したことはなかったが、人生で初めてデッサンしてリペアのイメージを共有した。
手を煩わせた脚のデザインだったが、その職人も僕も納得のいく仕上がりに収まった。
これなら喜んで買ってくれる人が世界に一人はいるはずだ、後は見つけてくれるかどうかの問題だ。
こういう思いが詰まったものほど動きは鈍くなるものだが、それでもいい。
三十路を迎えてもまだあるようなら、僕が喜んでくれそうな人にプレゼントしようと考えている。
賭け事とは無縁な人生だが、初めて県南のレース場で賭け事を経験した。
結果は悲惨だったが、中川家のコントの世界観にいるような心地で、ヤニまみれの空間も含めて楽しい経験だった。
よーいドンから第一コーナーにかけての数秒間に命を懸けている。
僕にはそんな気質を持ち合わせていないが、その数秒に胸を熱くするギャンブラーの気持ちは少しわかった気がする。
本社にいると有難いことに多くの仕事に携わらせていただいている。
リユースの仕事で言えば、見積もりや買取、販売。
それ以外にも店舗設計や企業案件の打ち合わせ、企画会議、人事、新規事業の立ち上げ・・・。
「やる仕事」が多ければ頭を悩ませずに自分でやること、AIに任せること、みんなでやることを分けて効率化を図れば良い。
「やりたい仕事」が増えればそれは違う話であって、それに追われる日々も楽しもうと思っている。
DX化が進み、AIと仕事をする機会も増えたが、人間の言葉にしか伝えられないものもあれば、効率を考えない仕事の楽しさもあって、僕たちの生きる世界はおもしろいことであふれている。
入社してたった二年、二十九歳から三十歳までのたった二年。
明日の株価も読めない不確かな毎日に、一つでも多くの確かなことに出会うことができるこの会社の仕事は楽しい。
僕は今日も数字を作る動き方とみんなが楽しんで働ける環境を考えながら、仕事に励む。
世界のどこかであなたに会える楽しみもこのコラムを通して増やせたら幸せだ。