脳内旅行 金沢編 全編

気づけば僕は

大阪発の特急列車

サンダーバード号に揺られながら

サンダーバードといえばペネロープやなと思いながら

じゃがりこを頬張っていました

 

やっと着いたぜ

石川県は金沢市に初上陸だ

今回の目的は

海の宝石

アカムツをこの手で釣り上げる事

アカムツは別名ノドグロ

説明不要の高級魚です

何度か食べた事はありますが

釣りたてはどんだけ美味いんだろうか

明日の早朝から遊漁船に乗る予定なんで

今からベタベタな観光を楽しみましょうか

 

まずは駅の喫煙所でタバコを燻らし

スマホで計画を立てようとした所

「タバコを一本くれませんか?」

汚いおっさんに声をかけられた

幸い電車内では音楽を聴いていたので

耳にイヤホンは付けっぱなしで

聞こえていないフリをする事にした

「なぁお願いだからくださいよー」

今度は肩を叩きながら嘯いてきた

チッ

しつこいホームレスだ

まあいい

旅は始まったばかり

すこぶる機嫌はイイ

ここはタバコを恵んでやって

少しでも優越感に浸ろうと考え直し

タバコの箱を開けると

3本しか入っていなかった

 

「おっちゃん 3本しか入ってないけどコレごとあげる

そのかわり又どっかで遭ったら1杯奢ってや」

 

「ありがとうございます ここまでして貰ったのは初めてだ

俺は必ずアンタにお返しするよ」

 

「期待しないで待ってるよ じゃあねおっちゃん」

 

タバコ3本の対価の割には

とても清々しい気分になれた

出だし好調だ

まさに

旅は道連れ世は情け

この調子で楽しもう

兼六園 21世紀美術館 etc

そこまで興味はないが行くべき所に一通り通ったら

腹のムシが鳴き始めていた

晩飯は決めている

 

寿司だ

石川なら寿司で決まりだ

実は駅近くにもう店は見つけてある

こじんまりとした雰囲気良さげな店

食べログの星は3.4

リアルだ

普段なら絶対に入れない感じの店だが

旅の開放感がたやすく店のドアを開いてくれた

ぃらっしぇー

威勢のいい声が聞こえてくる

カウンターに腰掛け

ビールを注文した

目の前のショーケースには

宝石の如く輝く新鮮な魚介類が並ぶ

どうやらメニューはないタイプの店らしい

一気にサイフが心配しはじめたが

久々の旅行だ

オススメを聞いてやる

少し照れ臭さを感じながら

「大将、今日のオススメはなんですか?」

俺は大バクチにでた

「今日は美味しいノドグロがありますよー」

満面の笑みで答えてくれた

・・・・・・・

ん・・・・・?

この声

この顔

まさか・・・・

 

タバコ恵んだホームレスおじさんだった

いや ホームレスじゃなかったんだ

立派なお店の大将だったんだ

 

少しの申し訳なさと

世間の狭さと

見知らぬ土地で知人に出会えた安堵感を

いっぺんに感じた僕は

1度冷静を挟んでから

「いや、明日ノドグロを釣りに行く予定なんで

ノドグロは明日にとっておきたいんですよ」

しっかりとした口調で返答した

「あ、そうなんですねーそれじゃこの・・・・でも握りましょうか?これも美味いですよー」

「・・・・じゃあそれ下さい」

この野郎

完全に俺の事こと忘れてやがる

こんなに目が合って話てるのに

なんのリアクションもない

クソが

あの清々しい気分を返しやがれ

てか

ノドグロ釣りに行く件りでもっと話広げれるやろ

そこサラッとそうなんですねーで片付けんなよ

いや ちょっと待て

そもそも寿司職人ってタバコ吸ってええんか

絶対あかんやろ

ハズレやこの店

食べログの星はリアルやった

「へいお待ちー」

怒りで名称も覚えていない

白身の寿司が僕の前に現れた

やさぐれた僕はぶっきらぼうに

寿司を口に運んだ

その瞬間

頭の中にアゲハ蝶がクルクル回り始めた

美味い

美味すぎる

ヤニ臭さは全くなく

生臭さは全くなく

某回店寿司チェーンでは絶対味わえない

とろける味わいの寿司が

アゲハ蝶を呼び寄せた

あまりの美味さに

自然と2貫目を手に取ろうとした瞬間

アルバイトの女子が芝エビの唐揚げを

こっそりと置いていった

もちろん頼んでいない

呆気にとられて

大将を目で追うと

こっちをみて軽いウインクをしてきた

・・・・・

プロや

気づいていたんだ

他のお客さんの手前

僕にえこ贔屓するわけにはいかないんだ

なるほど

この寿司の旨さは

思いやりなんだ

その後

何も注文していないが

ノドグロ以外の寿司が並び

心の中で汁物欲しいなと思ったら

赤だしが運ばれてきたり

心の中で珍しいの食べたいなと思ったら

聞いた事ない魚のカマ焼きが出てきたり

夢のような時間を過ごしました

大将との阿吽の呼吸です

2人の間に言葉はいりません

大満足の夕飯となりました

最後に熱いお茶を啜り

お勘定をお願いしました

最後まで大将は僕を普通のお客さんとして扱いました

僕もその心意気に囚われ

敢えて深いお礼はせずに

ご馳走様でしたと少しだけ頭を下げました

タバコ3本でこんなけ幸せになれるんだなと

いい意味で因果応報を味わった僕は

レジ前に向かいました

「お会計9000円になります」

 

 

・・・・・おおう

 

 

ヤラシイ話ですが

無料を少し期待しました

9000円

コレって高いの?

安いの?

いや、9000円丁度やねんから

なんかしらの会計操作はされているはず

けど9000円か

なんも注文してないのに9000円か

いや 払うよ

払うねんけど

大将をチラッとみてみると

他のお客さんと楽しそうに会話している

少しの嫉妬心と猜疑心を感じながら

9000円を支払い

店を後にしました

めちゃくちゃ美味かったからよかったんやけど

なんだかなー

万が一また大将がタバコくれと言ってきても

絶対断ろうという思いを胸に

2件目に向かう

そう

石川の本番はここからだ

続く